4月3日(日)付の読売新聞で面白い記事を見つけた。今回ブログで紹介するべく、読売新聞のサイトで記事を検索したが探し出せず、YomyClub(ヨミークラブ)なる人をバカにしたような名の会員にまでなって再度検索を試みた。が、検索できたものの、「データベースへの利用許諾が得られていない記事」という扱いで肝心の本文にまでアクセスできなかった。バカにしてんのか?
本文が掲載されている新聞は手元にある訳で、頑張って全文書き起こしてみた。こうなったら意地である。長い文なのでBlockquoteの処理を施していないが、以下その記事の引用である。
地球を読む 大国 浮沈の歴史
ポール・ケネディ(米エール大教授)
4月3日 読売新聞 1面
米国の座、100年後は?
この夏から秋にかけて英国は、「トラファルガー海戦」の200周年を祝う。ナポレオン戦争の真っ最中に、英国艦隊はフランスとスペインの連合艦隊を打ち破った。この歴史的な大戦争の一つを決定的な契機として、19世紀の英国は世界の海を支配する。そして、世界史上最も著名で劇的な海軍司令官、ネルソン提督が戦闘中に致命傷を追ったが、この軍事的勝利に一抹の苦味を加味している。
歴史好きの英国人たちは今、この遠い戦争の記憶を、様々な方法で再現しようとしている。筆者が滞在する大学町ケンブリッジの各書店は、この海戦に関する新刊の分厚い研究所や提督の伝記などの重みで、きしみを上げている。あらゆる国民は、自国の伝統や、英雄やヒロインを祝賀する権利を持つ。
しかし、ここで筆者が思い起こすのは、今年で刊行から100周年になる「帝国と世紀」という書物のことである。波乱の20世紀に備えて、英国とその属領属国をいかに再編するかを説いたこの興味深い論文集の中で、特に異彩を放つのは、ロンドンの日曜紙オブザーバーの著名な編集長だったJ.L.ガービンの寄稿文「帝国の維持」である。
ガービンは、長い論文の冒頭で、単刀直入に問いかける。トラファルガー海戦100周年を迎えた帝国は、200周年の時にも存在しているだろうか、と。それから彼は、ドイツと米国の巨大な生産力の伸長、諸外国の新たな海軍力の発展や陸上での進出など、英国による世界支配、いわゆる「パックス・ブリタニカ」に対する脅威の台頭について分析する。
だが、やがて明らかになるのは、大英帝国がもっと効率的になればあらゆる脅威に対処できる、と強気を装っているにもかかわらず、ガービン自身、その問に対する解答が否定的なものになるのを恐れているということである。
これを思い出したきっかけは、今日と明日の世界情勢をガービンと同じくらいに冷徹に分析した米政府機関・米国情報評議会(NIC)の文書「2020年プロジェクト――未来の地球地図」が、ちょうど手元に届いたことだった。
NICプロジェクトは、未来を展望して、米国と世界がどこに向かおうとしているかを示唆するために設置された。中立、無党派を旨としているが、昨年12月に作られた報告書を見る限り、その建前は十分に満たされている。
世界支配を脅かすアジア、欧州
このNIC報告書は、傑出した読み物である。国内政治、国際政治を問わず、あらゆる政策立案者に推薦したい。とりわけ、「パックス・アメリカーナ」は永遠に続くと信じ込んでいる視野の狭い米国の政治家たちには、恐らく最適だろう。報告書は、未来地図は単純でも明白でもないとし、1945年から現在までのいかなる時よりも多くの流転と変動が、今後15年間に生じると見ているのである。
従って、この重要な文書を取り上げた米国の新聞が少ないと知った時は、実に落胆した。しかもその大多数は、報告書のうち、イスラム過激派の台頭という、たった一つの「危険」に焦点を当てたものだった。全くもって米国の編集者たちも、ホワイトハウス内の連中と似たり寄ったりで、頭の中にはイスラム世界のことしか浮かんでこないのである。
もちろん、欧州とイスラム社会の間の緊張は、地球規模の戦略ゲームの極めて重要な手札の一つだが、それがすべてではない。つまりNIC報告書が特に優れているのは、それ以外の諸々の流れを描写し、幾つかは同時発生するかもしれない一連のシナリオを示唆しているところにある。
地球規模の市場を持つ資本主義の成功など、好ましい未来のシナリオの可能性も指摘してはいるが、全体としては不安定の度合いが減るよりも、増えることを示唆している。
以下、その幾つかを挙げてみる。
サハラ砂漠以南のアフリカ地域が着実に崩壊する。
世界のエネルギー供給は危機に瀕する。
ロシアの未来は険しく、中央アジアでは不安定が続く。
中東における対立と火種が、米国の足かせとなる。
中南米の多くの国では、先行きが判然としない。
地球規模の経済力を持つ欧州が着々と台頭し、米国より影響力を持つ可能性がある。
そして何よりも、インドと中国が、生産と貿易を手始めに、新技術へ、そしてさらに軍事的な腕力の拡大へと、着実に容赦なく台頭する。
報告書は、最近行われた各国成長率の長期比較を借用しながら、アジアの台頭と欧州の地盤拡大が不可避であることを認める。そしてさらに、米国が両者に対して影響力を及ぼす余地が縮小し、逆に両者が米国の政策に影響を及ぼしたり、あるいは米国の政策を阻害したりする可能性が高くなるだろう、との冷静な認識を示している。
米国は、深刻な崩壊の淵に近付きつつあるわけではない。
だが、以前よりも行動の自由は狭まるだろう。そして、例えばイランなどへの介入といった、米国の新保守主義者たち、いわゆる「ネオコン」が唱えるようなことを行う能力は大きく減少するだろう。
そう聞いただけでも、これは悪いことではないと思う向きがあるかもしれない。帝国然とした振る舞いが減るのは、歓迎するべき傾向だろう。
ただ、この119ページにも達する大掛かりで印象的な報告書が、最後は前向きの結論に達していることは明記しておく必要がある。米国は、多くの挑戦にさらされはするものの、今後とも「経済、技術、政治、軍事上の広範な分野の諸課題」について中心的な役割を果たし、「いかなる国も2020年まで追いつくことはできない」というのである。
確かに、何らかの核危機や環境的破局、あるいはドル通貨の完全崩壊などがない限り、米国は15年後まで世界一だろう。だが、報告書を通読すればわかるように、その世界一の座は、恐らく巨大な競争の圧力の下に置かれるだろう。そして、100年前のガービンの時代に、エドワード朝の英国が強いられたように、時に譲歩したり、また時には出来そうなことだけをするようになるだろう。
ガービンの自問を少し今風に直して、「いま世界一の国は、100年後も一位のままだろうか?」と問われたら、何人が「イエス」と答えるだろうか。筆者なら、初めから質問を聞かなかったふりをするだろう。
COMMENTS
http://www.cia.gov/nic/NIC_globaltrend2020.html で、「2020年プロジェクト―未来の地球地図」を読んでみました。ポール・ケネディさんは、「中立、無党派を旨としているが、昨年12月に作られた報告書を見る限り、その建前は十分に満たされている」と書いていますが、初めから終わりまで、アメリカ中心の発想で書かれている気がしました。それにしても、「全文書き起こし」、ご苦労様でした。
パープー 06:00, 7 May, 2005
コメントありがとうございます。
リンク先にジャンプしてみましたが、これまた読む気が失せる位膨大な量ですね…。これ読んだんですか?頭が下がります。
このポール・ケネディの記事は読売新聞の一面に載っていましたが、Daily Yomiuriの訳文だそうです。なので英語で読めば、「その建前は十分に満たされている」の部分も少しはニュアンスが変わってくるのかもしれません。
まあ正直、アメリカがどこまで客観的に世界を判断できるのかは疑問ですが。
ausp 01:06, 8 May, 2005